三宅島大学誌

2011〜2013年度にかけて実施した「三宅島大学」プロジェクトをふり返ります。

キッズリサーチ:4日目(たいしょく)

2012年8月21日(火)

生徒がだいぶ増えてきて、よろこびながらも、これ以上増えたら大変だなぁ…などと思いつつ、ラジオ体操で朝がスタート。早朝、加藤研のメンバーがもうひとり合流した(悪夢のため、5時に起きて迎えてあげることができず)。

午前の部

昨日も始業時間の30分ほど前に来た子供がいたが、今朝は1時間早く、9:00ごろに一人やって来た。どうやら「大学」が好きらしい。午前中は、全員で5名くらいだったと思う。

昨日からの変化がふたつ。ひとつは、中学生が(一人だけど)やって来たこと。聞いたところによると、中学生はこの時期は部活があって、(じつは宿題が山のように残っている可能性は高いのに)時間をつくるのがなかなか難しいそうだ。それでも、足をはこんでくれた。お互いに顔見知りでも、小学1年生と中学1年生では、ずいぶんちがう。中学生の“お兄ちゃん”が一人教室に現れただけで、ずいぶん空気が変わった。

“お兄ちゃん”は、それなりにじぶんの役回りを自覚しているようで、ときには場を盛り上げ、ときにはちいさな子供たちを諭すようなことを言う。騒ぎがあって、鎮まって…のくり返しだが、なかなかいい感じだ。

もうひとつの変化は、何人かの子供たちがお弁当を持参したということ。ここ数日は、お昼になると、一度子供たちは家に帰り、ふたたび午後の部にやって来ると いうパターンばかりだったが、きょうは昼休みも、この「寺子屋」で過ごすということだ。少しずつではあるが、ぼくたちの活動が知られてきたのだろう。 まぁ、焦らずに、できるだけ質の高い教室をつくろう。

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【宿題のほかに、お弁当と水筒が持ち物になった。】

きょうの午前中も、ぼくは隣の部屋から教室の様子をうかがいながら過ごしていた。なんとなく「託児所」代わりになってきた感じもするが、「はじまり」で書いたように、「キッズリサーチ」が〈子供たちを通して三宅島を理解する〉試みなのだから、すでに「気づき」をたくさん得ているのだ。こうして、島の子供(の夏休み)に触れているだけで、たとえば、ここでの時間の流れ方がわかってくる。

たいしょく?

じつは、ぼくは大学(「三宅島大学」じゃないほうの大学)での仕事があるため、午後の船で三宅島を離れることになっていた。「キッズ」のみならず、学生たちを残して帰るのは、ちょっと心配だが、この数日の共同生活で、「キッズリサーチ」を動かす精神も、方法も、だいたい共有できたと思う。だから、だいじょうぶだろう。

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船は、錆が浜港から 14:20に出る。学生たちは、ちょうど午後の部の最中で、子供たちの相手をする時間だ。だから、一人で帰る(寂しさを隠す)。昨年来、何度も島に来ているのだが、一人だけで船に乗って帰るのは、これがはじめてだ(ちょっと寂しさが滲む)。遠くの港ならムリだが、近所だから、一人で港まで荷物を転がして、 一人で船に乗るのだ(やせ我慢)…と思っていたが、“夏のおかみさん”が送ってくれるという(うれしい!)。二人で待合所にいると、遠くから船が見えた。

外に出て桟橋に向かい、列に並んでそろそろ乗船というところで「キッズリサーチ」のみんなが来た(わ!)。大学生たちとともに、子供たちが7、8人いただろうか。一人寂しく帰ろうとしているところに、みんなで「サプライズ!」だったのだ。

いや、ごめん。ここだけの話、ぼくが教室を去るときの雰囲気がいつになくよそよそしくて、じつは「サプライズ!」を察知していた。でも、来てくれるんじゃないかな…と密かに(勝手に)思っていて、じつは来てくれなかったときは、本当に凹む。なかなか複雑だ。だからつまり、来てくれてうれしかった。

とはいえ、チビッコたちが紙テープを渡してくれたのは、完全に想定外。ぼくは、すぐにデッキに回って、子供たちにテープを投げた。かめりあ丸だと、近いところでテープのやりとりができるから便利だ。

もうちょっと感動している雰囲気を出せればよかったのだが、ひとつひとつのテープを海に落とすことのないよう、そして、まちがってもこちら側で掴んでいるべきテープの端をうっかり離してしまわないよう、けっこう緊張していた。白いテープは、糊がはがれず、なかなか子供に渡すことができなかった。

船はあっという間に堤防を離れて、テープが切れた。紙テープが切れる瞬間は、思っていた以上に衝撃があった。みんなが手を振る姿がちいさくなって、ガメラのような三宅島が見えた。この試みはまだはじまったばかりだが、あの教室が、とても愛おしい場所に思える。三宅島の子供たちと大学生たちが、何かの縁でたまたま出会い、つくってきた場所だ。

あとから聞いた話だが、ある生徒が、その日の感想文に「初めてあったエフカトウ先 生。でもご退職なされました」と書いたらしい。ぼくは、隣の部屋にいることが多かったから、船で島を離れるときが、初めてだったのだ。というわけで、ぼくは「寺子屋」の先生をたいしょくした。(もちろん、このあとも、ちゃんと遠くから「キッズリサーチ」を支えていくけど…。)

* たいしょくしたので、4日目の午後からの分は、みんなで分担して書いてもらうことにした。やや荒削りでも、ぼくたちの滞在中の「キッズリサーチ」の活動日誌を残しておきたい。ぼくがいろいろ考えたことについては、また後日。大ちゃんが、朝のラジオ体操をサボらないことを願う。

◎この日誌は2012年8月22日(水)にFacebookの「ノート」に書いたものです。(原文のまま)